『Dimension W』のストーリーをドラマチックに盛り上げている音楽=劇伴は、椎名豪さんと藤澤慶昌さんのお2人の共同制作です。
今回の「Wの扉」そのうちのおひとり椎名豪さんをお招きして、本作の音楽に込めたイメージについて、語っていただきました。
椎名さんは『ゴッドイーター』『エースコンバット』といった人気ゲームの音楽を数多く手がけている作曲家で、『Dimension W』の亀井幹太監督とは『テイルズ・オブ・レジェンディア』(亀井監督がアニメーションパートの監督を担当)でも一緒にお仕事をしています。
『Dimension W』の音楽について、まず、亀井監督から椎名さんに伝えられたのは「キョーマの男臭さを表現してほしい」。
そのオーダーに応えるべく、椎名さんが選んだ楽器が「アコースティックギター」です。
「“男臭い”というと、センチメンタルだったり、メランコリックだったり、意外とサバサバしていないというイメージかな、と。そういう、いわば“しみったれた部分”を表現するには、アコースティックギターがいいと思いました。でも、それは貧弱なだけではなくて。アコースティックギターの音色は、 “しみったれ”の裏にある“輝き”や“美しさ”も感じさせられるからなんです」(椎名)
そして、原作コミックスやアニメの資料を読み込んだ椎名さんが、自身のこだわりとして音楽に込めたイメージは“融合感”だそうです。
「僕が小学生の頃に『つくば万博』」というのがありまして(1985年に開催された『国際科学技術博覧会』、通称“つくば科学万博”)。
小学生にとっては度肝を抜かれるような、当時の最先端科学がいろいろ紹介されていました。
自分のなかで、それと『Dimension W』の世界観がダブって、ある意味懐かしかったというか……。
レトロフューチャーとサイバーパンクが混じっている、古いものと新しいものが“融合”したような独特の未来感ですね。
特に気を遣ったのは、生楽器の音と、いかにもシンセサイザー的な音と、その中間で生楽器をシンセサイザー模倣したようなフェイクの音。
この3つをバランス良くブレンドして、ハイブリッド感を出すということです。
今作はキャラクターの心情もクローズアップされているので、近未来的な雰囲気に偏りすぎて味気ない楽曲にならないように、生の楽器の音色が持つ表現力で、人間の感情も感じさせられるような音楽にできればと思いました」(椎名)
コイルという未知の技術によって飛躍的に発達した近未来。
でも、今とそれほど変わらない風景も確かに残っており、コイル嫌いのキョーマという男が醸し出すアナクロニズムも大事なエッセンスになっている。
そして、どんな時代でも変わらない人の心のドラマが、しっかりと描かれている。
そんな本作のイメージが、音楽にもしっかり込められているのです。